Dr Makoto’s BLOG

ドーパミンの睡眠貯金

パーキンソン病2018.12.02

先日クリニックに来られたパーキンソン病患者さん。
クリニックに通院して1年が経ちましたが、彼は仕事真っ盛りの時期にパーキンソン病を発症されています。これまで奥さんの懸命なサポートや職場の理解もあり、現在も仕事を続けておられます。

彼は、レボドパというドーパミンの治療薬を1日3回内服し、薬が効いている時間帯は比較的元気に過ごしておられます。朝早く出勤して、午前中は調子の良いときが多いのですが、どうしても1日の後半、とくに夕方以降で調子が優れなくなる傾向があります。

それでも、不思議なことに、夜中に大好きなテレビゲームをするときは、おそらくドーパミンが湧きだしてくるのでしょう、吹っ切れたように調子が良くなるのだそうです。ところが、夜更かしをした翌日は調子が優れなく、体調が回復するまで数日かかるのだとか。また、不思議なことに、仕事のない休日は、疲労が少ないためでしょうか、夕方以降も比較的元気に過ごしておられるとのことです。

毎日同じ薬を内服しているのに、どうしてこのように体調が変わるのでしょう?
パーキンソン病の患者さんは確かにドーパミンの分泌量が減ってしまいますが、ご自分の脳からある程度の量でドーパミン分泌はされています。加えて、脳から分泌されるドーパミン量は、24時間リアルタイムに変動し、常に一定ではないということが重要です。

日常生活のなかで、脳からのドーパミン分泌が増えるタイミングは、睡眠時間が肝だと私は考えています。言い換えると、「寝ている間にドーパミンが貯金」されていくということです。

しっかり睡眠をとることができると、起床時にはドーパミンがたくさん貯金・チャージされた状態になります。ところが、日中の仕事・家事などの活動によってドーパミンが少しずつ消費されていき、だんだんドーパミンの量が減っていくようになります。そこで、レボドパなどの治療薬でドーパミンを補充することで、ドーパミン量は一時的に増えますが、ベースとなる脳から分泌されたドーパミンは1日の後半になるとだんだん減っていきます。そのため、同じ薬を内服しても、夕方はどうしてもトータルのドーパミン量(脳から分泌されたドーパミン+治療薬で補充したドーパミン)は少なくなる傾向になってしまいます。

多くのパーキンソン病患者さんが睡眠の問題を抱えておられますが、目標6時間の睡眠時間をとることができれば、脳から分泌されるドーパミンも十分に貯金・チャージされ、1日の後半でも比較的元気に過ごせるようになる方が多い印象を持っています。

そのために、夜間の十分な睡眠や昼寝でドーパミンを増やす、自分の好きなこと(運動・読書・ゲームなど)を取り入れてドーパミンを増やすことに加え、休憩を細かく取り入れることで疲労を軽減しドーパミンの消費を抑える。

言うならば「ドーパミンの収支をプラスに保つ」ことをイメージすることで、1日を通じて比較的元気な状態を維持できるようになると、私は考えています。

 

廣谷 真

廣谷 真Makoto Hirotani

札幌パーキンソンMS
神経内科クリニック 院長

【専門分野】神経内科全般とくに多発性硬化症などの免疫性神経疾患、末梢神経疾患
眼瞼けいれん・顔面けいれん・四肢の痙縮に対するボトックス注射も行います。

【趣味・特技】オーケストラ演奏、ジョギング、スポーツ観戦、犬の散歩