パーキンソン病2025.03.02
クリニックの診察室では、毎回患者さんに歩いていただくようにしています。
椅子からの立ち上がりはしっかりできるか、歩き始めはスムーズにできるか、歩幅は左右均等に大きくとれているか、腕をしっかり振って歩けているか、前かがみや後ろにのけぞるような姿勢になっていないか、踵から地面に接地できているか、方向転換がしっかりできているか、狭いところで足を出すことができるか…などなど、実際に歩行していただく時間は30秒にも満たないのですが、様々な点を観察させていただいています。
パーキンソン病患者さんにみられることがある「すくみ足」。歩行中に足が地面にくっついたように感じられ、動き出すことが難しくなってしまう現象です。すくみ足の出方は様々なタイプがあり、その出方によって原因や対策が変わっていきます。
すくみ足の多くは、歩き始めや方向転換をするときに、足が上手く出なくなってしまいます。また、歩き始めや方向転換は比較的スムーズでも、人混みや狭いところを通るときに急にすくみ足が出ることも拝見します。さらには、歩き始めに限らず、歩き出してからもずっとすくみ足が出てしまい、なかなか前に進むことができない姿も拝見します。
すくみ足がみられる患者さんには、「診察の前、最後は何時に薬をのんできましたか?」と尋ねるようにしています。ウェアリング・オフと呼ばれる、日内変動がみられる場合には、薬効が減弱しているオフ時間帯のときにすくみ足が出やすいためです。このように、薬効が出ているオン時間帯にはしっかり歩けるものの、オフ時間帯になるとすくみ足が出るような場合は、まずドーパミン治療薬を調整してオフが軽減するようにしていきます。
一方で、診察室ではしっかりオン時間帯のはずなのに、それでもすくみ足が出てしまうことも拝見します。このような場合には、オフ時間帯にみられるすくみ足のようにドーパミン治療薬を増量しても、なかなかすくみ足は改善しにくく、かえってジスキネジアという不随意運動など副作用が目立ってしまうことがあります。このオン時間帯にみられるすくみ足の対応が難しく、ドロキシドパという主にアドレナリン系を刺激する薬剤を追加したり、キュー訓練を指導していきます。
「キュー訓練」とは、歩き出すときに、目印となる目標をつくってから歩き出す方法です。患者さんの足のすぐ前に、介助者が片足を置いて、それをまたぐようにして歩き出しを促す方法が有名です。他にも、「5メートル先のあそこの柱まで、10歩で歩くようにしください」というような目標を提示することも、効果的なキューになります。
オン時間帯のすくみ足では、歩き出そうと意識すると、かえってからだの緊張が高まり、体幹や手足に力が入ってしまいます。そのため、歩き出す前に、一度屈伸運動や深呼吸で緊張を和らげてリセットしてあげることも大切です。また、前に進もうとする意識が強くなると、重心が前方に偏ってしまい、つま先に力が入りやすくなってしまいます。そのようなときには、まず片足を一歩後ろに引いて、前方重心をリセットしてあげてから、勢いをつけて歩き出す方法もあります。フローリングなど滑りやすい床であれば、重心を少し下げて、足を滑り出すように運んでいく、「スケート歩行」が有効なこともあります。
「すくみ足」といっても、その症状は様々で、患者さんによって対策も変わっていきます。まずは、オフ時間帯にすくみ足があるのか、オン時間帯(もしくはオフがない患者さん)にすくみ足があるのか、しっかり見極めてから薬剤治療を相談していきます。そして、ご自分のすくみ足にあったキューを見つけるために、たくさんの患者さんがリハビリテーションに励んでおられます。
~夏の利尻山
廣谷 真Makoto Hirotani
札幌パーキンソンMS
神経内科クリニック 院長
【専門分野】神経内科全般とくに多発性硬化症などの免疫性神経疾患、末梢神経疾患
眼瞼けいれん・顔面けいれん・四肢の痙縮に対するボトックス注射も行います。
【趣味・特技】オーケストラ演奏、ジョギング、スポーツ観戦、犬の散歩
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