パーキンソン病2019.01.21
雪の少ない12月でしたが、年が明けて、帳尻を合わすようにめっきり冬らしくなってきました。寒いなかでも、パーキンソン病患者さんをはじめ、たくさんの患者さんがクリニックに来られ、リハビリテーションに励んでおられます。
ここ数年で、パーキンソン病の診断がより早期にできるようになりました。パーキンソン病の診断は、手足のつかいにくさ・硬さ・ふるえといった症状の聞き取りや、診察での筋固縮・動作緩慢・振戦・姿勢反射障害といったパーキンソン病らしい所見から、総合的に診断していきます。これは現在も変わらない基本なのですが、2014年よりダットスキャンという画像検査が可能となり、この検査がパーキンソン病の診断に大きく貢献するようになったためです。
パーキンソン病で減少するドーパミン神経細胞では、ドーパミントランスポーターというタンパク質が減少することがわかっています。ダットスキャンはこのドーパミントランスポーターの量を数値として測定します。これまで脳MRIや採血といった検査ではわからなかったパーキンソン病の診断が、ダットスキャンでわかるようになった、画期的な検査です。
パーキンソン病は症状が出現する数年前よりドーパミン神経が減少すると言われ、いよいよ減少が目立ってきて初めて、様々な症状が出るようになります。手足のふるえ、動作がゆっくりといった症状が出てから診察に来られる場合には、比較的容易にパーキンソン病の診断が可能です。一方で、日常生活は一通りこなせるものの、「なんとなく身体が重い」「なんとなく気分が乗らない」「なんとなく動作に時間がかかる」といった、早期パーキンソン病の場合には、これまで診察をしても診断に難渋することが少なくありませんでした。
このような早期パーキンソン病患者さんは、多くの場合に、いろいろな医療機関を受診し、MRIや血液検査、なかには胃カメラなども受けるものの、異常なしと診断されてきます。明らかに以前とは体調が違うのに、異常なしと診断される…そしてその後も症状がだんだん強くなっていく感じがする。多くの患者さんが不安を感じ、その不安のために、本来分泌されるはずのドーパミンも減ってしまい、さらに体調が優れなくなってしまう。
診察で微かに筋固縮や動作緩慢が疑われる場合に、このダットスキャンを実施し、ドーパミントランスポーターを測定することで、パーキンソン病の診断がより早期にできるようになりました。
先日クリニックにこられた女性患者さん。背筋もピッと伸びて、一通りの仕事や家事もこなすことができる。一見何の支障もないように見えますが、お話を伺うと「なんとなく身体が重い」「なんとなく気分が落ち込む」といった自覚をお持ちです。これまでさまざまな医療機関を受診し、異常なしといわれてきたことに戸惑っている様子が犇々と伝わってきました。ダットスキャンを実施し、ごく早期のパーキンソン病であることをお伝えしたところ、パーキンソン病の診断がついたことへの驚きもお持ちの様子でしたが、それ以上に、診断がついたこと、これからご自分の身体とどうやって向き合っていくかを考えることで、気持ちが前向きになったと話されていました。
このような早期パーキンソン病患者さんには、最初から薬での治療はせずに、まずはしっかり病気のお話しをし、ご自分の脳からドーパミンを上手く出していくための秘訣をお伝えしています。最低6時間を目標とする十分な睡眠でドーパミンを増やしていく、日中の活動時間でドーパミンの消費を適切に保っていく、疲れたと感じたときには休息をこまめにはさんでいく、背中に軽く汗をかく程度の運動の大切さ、趣味や日常生活でときめきを感じることの大切さです。
そのような意識を持つことで、多くの患者さんは2-3カ月経つと症状が軽くなることを実感されます。そして、その実感が自信へつながり、さらにドーパミンが出やすくなる好循環となっていきます。
日常生活を自立して過ごすことができる早期パーキンソン病患者さんへのダットスキャン検査は、検査の目的を説明し、患者さんと相談してから実施しています。多くの患者さんがダットスキャン検査を希望されますが、あえて希望せずにご自分の身体と向き合っていく患者さんもおられ、様々な向き合い方があります。ダットスキャンを実施した多くの患者さんは、早期の診断を前向きに捉え、ご自分の身体と向き合っておられる印象を持っています。
廣谷 真Makoto Hirotani
札幌パーキンソンMS
神経内科クリニック 院長
【専門分野】神経内科全般とくに多発性硬化症などの免疫性神経疾患、末梢神経疾患
眼瞼けいれん・顔面けいれん・四肢の痙縮に対するボトックス注射も行います。
【趣味・特技】オーケストラ演奏、ジョギング、スポーツ観戦、犬の散歩
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