パーキンソン病2019.05.20
先日クリニックに来られたパーキンソン病患者さん。
調理師として長く活躍され、あと1年ほどで定年退職を迎える男性です。
リハビリテーションのために、他院からクリニックに移られたのがおよそ1年前。身体のだるさ、手足のつかいにくさなど調子の悪い時間帯もありますが、比較的少量の治療薬で生活しておられます。ご家族の大黒柱であること、また大好きな少年野球チームの指導にも熱心です。
その彼が仕事の関係でこの4月から単身赴任されました。今年に入ってから単身赴任するかもしれないという相談を聞いていました。薬の調整はせずに、まずはやれるところまでやってみたいとの彼の希望、それをサポートしたいというご家族の気持ちが犇々と伝わってきました。
仕事や生活環境の変化に、これまでなんとか頑張ってきた身体が追い付かなくなってしまったのでしょうか。単身赴任してから体調が思わしくなく、身体のだるさ、手足のつかいにくさに加え、不安も感じやすくなってしまいました。現在は自宅で休養され、ご家族のサポートのもと、体調が少しずつ落ち着いてきています。
パーキンソン病ではご存知のとおり、脳のドーパミンが減少してしまい、身体のだるさ、手足のつかいにくさ、すぐれない気分といった症状が出てくるようになります。それでも、まだご自分の脳から出るドーパミンを頼りに、みなさんがなんとか毎日を生活しておられます。
仕事や生活環境の変化に、身体的な疲労、精神的な疲労が重なると、頼りにしていたご自分の脳から出るドーパミンも減ってしまい、踏ん張りが効かなく、体調がすぐれなくなってしまいます。
どんな方でも、生活していると大なり小なり環境の変化が伴いますが、治療薬はこのようなときに「踏ん張り」が効くようになる効果も持っています。
どこまで薬を調整するか? これはとても深くて難しい課題です。治療薬が過多になると、眠気や幻覚、将来的な日内変動(オン・オフと呼ばれるような治療薬の不安定さ)への配慮が必要です。一方で治療薬が少ないと、本来もう少し動けると思われる状況でも、体調がすぐれなくなり、環境の変化などに対して踏ん張りが効かなくなってしまいます。
パーキソン病治療に携わる医療人として、画一的な治療方法はなく、100人の患者さんがいれば100通りの治療薬の方法があることを、常日頃から意識しています。彼は、10年先の将来を見据えているように私には映りますが、あと1年後の定年退職までは休養し、ご家族のサポートに感謝しながら、あえて当面は治療薬を増量しないで体調回復を待ちたいとの希望をお持ちです。
薬を増やしたり減らしたりすることは、もちろん必要なことではありますが、語弊を恐れずに言うと、簡単なことでもあります。今現在で考え得る治療選択肢をお伝えし、ご本人とご家族がその都度納得できる治療法をサポートしていくこと、そしてその納得が今後変わっていく可能性も意識しながら、そのときにはいつでも対応できるようにして準備しておくことも、大切な関わり方ではないかと感じています。
廣谷 真Makoto Hirotani
札幌パーキンソンMS
神経内科クリニック 院長
【専門分野】神経内科全般とくに多発性硬化症などの免疫性神経疾患、末梢神経疾患
眼瞼けいれん・顔面けいれん・四肢の痙縮に対するボトックス注射も行います。
【趣味・特技】オーケストラ演奏、ジョギング、スポーツ観戦、犬の散歩
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