パーキンソン病2019.06.17
めっきり陽がながくなり、仕事を終えても明るい日が増えるようになりました。
北海道神宮例祭も終わり、いよいよ夏の到来を感じるようになります。
先週クリニックにこられたパーキンソン病患者さん。
3名の方から、「そろそろ薬を増やしたほうが良いでしょうか?」と相次いで相談を受けました。
いずれも、パーキンソン病と診断を受けてから、まだ2年未満の患者さん。
手足のつかいにくさ、歩行が遅いといった症状を抱えながらも、日常生活は一通り可能で、少量の治療薬とリハビリテーションで毎日を過ごしておられます。
パーキンソン病で減少する脳内ドーパミン。
このドーパミンを増やす方法は、これまでもお伝えしてきたように日常生活でドーパミンを増やす取り組み、リハビリテーションがありますが、やはり最も効率的にドーパミンを増やす方法は薬物治療です。
標準的な治療法が記載してあるパーキンソン病ガイドラインでは、「生活や仕事に支障があると薬物治療を考慮しなさい」と明記されており、これは日本・世界共通の基準です。あわせて、まだ薬物治療に該当しない患者さんへは、リハビリテーションや生活の指導をする、ということも明記されています。ただ、程度の差こそあれ、ほとんどの患者さんが生活や仕事に支障を感じておられ、そうすると多くの患者さんが診断ののち直ちに薬物治療を開始することになりますが、いったいどの時期に治療薬の開始・増量を見極めたらよいのでしょうか?
私は治療薬を開始・増量する時期については「見極め・猶予期間」があると考えています。
パーキンソン病の進行具合は患者さんによって実に様々で、クリニックに来られてから最初数カ月の診察で、おおよその進行具合を患者さんと共有していきます。一般的には、月単位で治療薬の増量が必要な患者さんはごく一部と感じており、多くの患者さんは半年から一年程度は増量せずに、リハビリテーションや生活指導で対処することが可能と感じています。ただし、そのまま経過をみていくと、筋肉の硬さや関節の可動域が固定してしまうことも多いので、治療薬の開始や増量のタイミングを逸してしまうと、開始・増量してもなかなか体調が回復しない、ということにも繋がりかねません。
治療薬の開始・増量は脳内で減っているドーパミンを効率的に増やすことが出来ますので、体調を良くしたり楽にするという点ではとても魅力的です。一方で、治療薬を開始・増量することでの副作用、たとえば眠気、幻覚、ウエアリング・オフと呼ばれるような日内変動なども考慮しなければなりませんので、薬物治療の開始・増量のタイミングは早すぎても、遅すぎても良くないと感じています。その見極めの期間を「猶予期間」と捉え、治療薬の開始・増量の選択肢を常に持ち合わせながら、日々の生活や仕事の様子を伺うようにしています。
患者さんの日々の生活の様子を伺っていくうちに、「見極め・猶予期間の限度に近い」と判断するときには、こちらから治療薬の開始・増量を提案するようにしています。
症状が辛くなっていて、病気が進行しているような気がするのに、治療薬が開始・増量されないと感じる場合は、「病気が進行していない」という意味合いではなく、「開始・増量のタイミングに、もう少し見極め・猶予期間が残っている」という見方があることを頭に入れていただくと良いと感じています。
多くの患者さんは治療薬がどんどん増えていくことも不安を感じることと思いますし、一方で治療薬がずっと変わりないことにも不安を感じることと察します。あえて治療薬を変えないで慎重に経過をみていく、この「見極め・猶予期間」を、患者さん・ご家族と共有することは、治療をすすめていくうえで、ひとつ納得しやすい、安心につながるのではないかと考えています。
廣谷 真Makoto Hirotani
札幌パーキンソンMS
神経内科クリニック 院長
【専門分野】神経内科全般とくに多発性硬化症などの免疫性神経疾患、末梢神経疾患
眼瞼けいれん・顔面けいれん・四肢の痙縮に対するボトックス注射も行います。
【趣味・特技】オーケストラ演奏、ジョギング、スポーツ観戦、犬の散歩
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