Dr Makoto’s BLOG

気持ちと元気の関係 ~ドーパミンとセロトニン、アドレナリン

パーキンソン病2019.06.24

しばらくすっきりしない天気が続いていましたが、やっと6月の札幌らしい、カラっと気持ち良い天気になりました。

先日クリニックに来られたパーキンソン病患者さん。活発でにこやかな彼女は、ご夫婦で地元に愛される店を営まれています。

今年にはいってから気分が優れなく、人が変わったように元気がなくなってしまいました。いくつかの医療機関を受診しますが、なかなか元気にならないとのことで、先月クリニックを初めて受診されました。

診察室に入る姿は、しっかりと歩くことが出来、身なりも綺麗にされています。ただ、顔の表情がやや曇った、硬い印象があり、お話しを聞いていても、どこかすっきりしない、もやもやしたものを抱えておられる印象です。これまで仕事と両立してきた家事をすることが、とても億劫になり、動くとすぐに疲れてしまうとのこと。食欲はあるものの、体重が減り、睡眠も浅くなってきています。

これまで、気分が優れないとのことで、他院で抗不安薬、いわゆる安定剤の治療を受けてきたそうです。抗不安薬を内服すると、一時は気分が紛れるものの、やはりなかなか気分が回復してこない、そんな状況がしばらく続いてきたとのことです。拝見すると、手足の筋肉に硬さ(固縮)があり、歩行時に一方の腕の振りが小さくなっています。脳内のドーパミン量を測定するDATスキャンでドーパミンの減少が確認され、パーキンソン病と診断しました。

パーキンソン病の方は大なり小なり、気分的な不調を抱えている場合が多いと感じています。他院で「抑うつ状態」と診断されているうちに、途中から、手足のふるえ、動作が遅くなるといった症状が加わるようになって初めて、パーキンソン病と診断される方も実に多くおられます。

「快楽ホルモン」とも呼ばれているドーパミン。このドーパミンが減少すると、快楽を感じにくくなってしまいます。そのために、楽しめない、美味しく食べることができない、すぐ飽きて疲れてしまうようになり、次第に気分が優れないと感じるようになってしまいます。

脳からはドーパミンのほかに、アドレナリン、セロトニンといったホルモンも分泌され、これらは三大ホルモンとも呼ばれています。パーキンソン病ではドーパミンがメインに減少しますが、ドーパミン減少の影響でセロトニンやアドレナリンも減少してしまう患者さんも多い印象を持っています。セロトニンが減少すると、不安やイライラを感じやすくなってしまい、アドレナリンが減少すると、やる気や意欲がわかないといった症状が出やすくなってしまいます。

抗不安薬は不安などを一時的に軽くすることに役立ちますが、脳の働きを全体に鎮めるはたらきが中心のため、ドーパミンを増やす作用はほとんど持っていません。ドーパミンを増やす治療は、手足のふるえや動作が遅くなるといった運動症状のほか、気分的な優れなさ(前述の美味しく食べることができない、すぐ飽きて疲れてしまうといった症状)も回復させることが期待できます。多くのパーキンソン病患者さんは、ドーパミン治療で運動症状と気分の優れなさ、いずれも楽になっていきます。それでも気分がいまいちすっきりしない場合には、ドーパミンに加え、セロトニンやアドレナリンを増やす治療を追加することで、やっと気分が楽になる患者さんもおられます。

クリニックに来られた患者さんは、少量のドーパミン治療を開始したところ、だいぶ元気になってきました。ところが、気分の優れなさがまだ残っていることで、2回目の受診時にアドレナリンを増やす治療を追加しています。先日来られたときには、気分がだいぶ回復し、外出機会も増え、近所の方と話す時間も楽しめるようになってきたようです。ご家族の「お母さんのもともとの元気さが戻ってきて嬉しいです」と、ほっとした表情が印象的でした。

廣谷 真

廣谷 真Makoto Hirotani

札幌パーキンソンMS
神経内科クリニック 院長

【専門分野】神経内科全般とくに多発性硬化症などの免疫性神経疾患、末梢神経疾患
眼瞼けいれん・顔面けいれん・四肢の痙縮に対するボトックス注射も行います。

【趣味・特技】オーケストラ演奏、ジョギング、スポーツ観戦、犬の散歩