Dr Makoto’s BLOG

ベテランさん ~ひとつひとつの積み重ね

多発性硬化症2019.09.23

今年の秋分の日は、朝から晩まで絶え間なく雨が降り続いています。
そして、日が暮れるのがとても早くなったのを感じます。春までのあいだ、これからしばらくは夜が長い季節となっていきますね。
 
先週クリニックにはじめて来られた患者さん。
顔や手足にしびれを感じるようになり、いくつかの病院を受診され、最終的に前の病院で多発性硬化症(MS)と伝えられました。
多発性硬化症…診断を伝えられるときに、ほとんどの患者さんが初めて耳にする病気かもしれません。がんや心筋梗塞は、おぼろげながらイメージがつくかもしれませんが、MSについては多くの方がイメージすらつかない様子を拝見します。この患者さんも、病気のイメージがつかずに、いろいろな情報を目にして、おそらく日に日に不安が積み重なっていったことと察します。精神的にとても大変な、つらい時間を過ごしておられました。
 
MSは脳や脊髄のところどころに炎症が起きてしまう病気です。
この炎症、私は「火事」と例えることもありますが、一瞬で消えてしまう火事もあれば、ながく続いてしまう火事、ずっとくすぶっている火事、繰り返す火事もあるように、様々な炎症の出方、病勢があります。私たちはMSの病勢を「活動性」と呼んでおり、この活動性を適切な期間で見抜いていくことが、とくに診断の前後では大切と考えています。
 
これからながくMSと付き合っていかなければならない患者さんは、実に大きな不安を抱えておられます。そして、ながく病気が安定して欲しい、ずっと先のことを見通したいという気持ちに深く共感します。

まず、私は診断や初めてお会いする際には、「最初の半年間を、まずはしっかり症状やMRIで経過を一緒に追っていきましょう。そこでひとつMSの活動性を把握することができます。」と伝えます。そうして、症状が変わりなく安定し、繰り返し撮影するMRIでも変わりなく安定しているのがベスト、治療方法は一通りではなく、それに見合うように治療方法を都度相談していくことが大切と考えています。
 
度々しびれが出てきて「再発かもしれない」と不安に思ったときは、ひとつひとつ対応を相談していきます。多くは昔のしびれが一時的に顔を出しては消えていくもので、再発ではないことが多いのですが、一緒に経過を共有していくことで「このしびれは少し様子をみても大丈夫」と、ご自分なりに上手な判断ができるようになっていきます。こればかりは本やネットからの情報ではわからないもので、患者さんと一緒に上手い塩梅を探っていく作業、つまりは患者さん自身が経験して積み重ねていくことも必要になっていきます。

ベテランのMS患者さんはそのあたりがとっても上手、ベテランさんも最初から同じような不安を抱えてこられましたが、きっとひとつひとつの積み重ねなのでしょうね。気持ちに余裕が垣間見えるような気もしているのです。

廣谷 真

廣谷 真Makoto Hirotani

札幌パーキンソンMS
神経内科クリニック 院長

【専門分野】神経内科全般とくに多発性硬化症などの免疫性神経疾患、末梢神経疾患
眼瞼けいれん・顔面けいれん・四肢の痙縮に対するボトックス注射も行います。

【趣味・特技】オーケストラ演奏、ジョギング、スポーツ観戦、犬の散歩