Dr Makoto’s BLOG

新たなスタート ~痙性斜頚とボトックス®

クリニック2020.02.10

札幌雪まつりにあわせるかのように、一気に雪と寒さがやってきてきました。週末はさすががにしばれました。
雪まつりが明けると、3月下旬並みの暖かさがやってくるようです。
 
先日クリニックに来られた女性患者さん。
20年ほど前より首が右へ傾いてしまい、時折呂律がまわりにくくなってしまうこともあります。ここ数年は症状に波が目立つようになり、この1か月で再び日常生活をするうえでも支障を来たすようになってしまったため来院されました。
 
20年ほど前に一通り受けた精密検査には異常がなく、恐らく精神的なものからくると伝えられたとのことです。彼女のお話を伺っても、ごくごく当たりまえの家庭生活を過ごしてこられ、むしろ症状と向き合いながら立派にこれまで過ごしてこられた印象を持ちます。
 
拝見しますと、首が右方向へ強く外を向いてしまい、右の後頚部・肩上部の筋肉に強く力が入っているのが分かります。時折正面を向くタイミングもありますが、やがて再び右側を向いてしまう。診察中はその繰り返しで、ご本人もやっとの思いでこれまでのいきさつを話されます。
 
自分の意思とは反して力が入ってしまう状態をジストニアと呼び、この患者さんも一見してジストニアがみられる状態でした。首のジストニアは絶えず首が傾いてしまう「持続型」のほか、この患者さんのように傾いたり戻ったりを繰り返す「間欠型」の方もおられます。自分ではコントロールが効かずに非常に不快を強いられ、普段の生活で向かいあって会話することも儘ならず、まったく途方に暮れたご様子です。
 
一般的に、ジストニアはパーキンソン病の患者さんに多くみられ、手足が突っ張る、姿勢の前かがみのように現れることがあります。その他にも薬剤の影響やジストニアを来す病気を調べていき、いずれにも該当しないとわかってはじめて痙性斜頚ということをお伝えします。
 
この痙性斜頚の原因ははっきり分かっていなく、筋肉に力が入ってしまうこと状態が「普通の状態」と大脳基底核・大脳皮質が誤って認識してしまう影響とも言われています。以前のブログでもお伝えしましたように、検査では異常が出てこないことがほとんどです。そのために、「ストレスのせい」「気のせい」と言われ、途方に暮れる方が多くおられます。
 
彼女には、精神的なものからくる症状ではないことをまずお伝えしたところ、これまでながい間ご自分を責めてしまわれたようで、一気に涙ぐまれていました。治療の概要をお伝えし、筋肉の緊張を和らげるボトックス®治療を開始しました。ボトックス治療は適切に効果が出るまで半年から一年ほど要します。少しずつ、でもしっかり症状が良くなっていくことを一緒に共有しながら、20年を経ていよいよ治療がスタートしました。
 

廣谷 真

廣谷 真Makoto Hirotani

札幌パーキンソンMS
神経内科クリニック 院長

【専門分野】神経内科全般とくに多発性硬化症などの免疫性神経疾患、末梢神経疾患
眼瞼けいれん・顔面けいれん・四肢の痙縮に対するボトックス注射も行います。

【趣味・特技】オーケストラ演奏、ジョギング、スポーツ観戦、犬の散歩