パーキンソン病2020.05.17
先日クリニックに来られたパーキンソン病患者さん。
温和で気さくな40代のお母さんで、いつもご主人と一緒に来院されます。お時間が合うときは娘さんも一緒に来られます。
彼女がパーキンソン病と診断されて約3年が経とうとしています。
当初は少量の治療薬をつかいながら、家事に加えて仕事も精力的にこなしておられました。
ところが、ここ1年くらいで一日の体調に波が目立つようになり、治療薬を内服してもなかなかすぐに効いてこない、また内服して3時間ほどで薬の効果が切れて体調が優れなくなってきました。いわゆる「ウェアリング・オフ」と呼ばれるパーキンソン病症状の変動です。治療薬のレボドパは減っている脳内ドーパミンを補充するのに効果的ですが、内服を続けていると切れやすくなってしまい、「薬が効いているときには動ける」という状態になってしまいます。40代とまだ若い彼女には、少量のレボドパのほかに、ドパミンアゴニストと言われる、一日を通じて長く安定しやすい治療薬も併用し、なるべく一日の中でドーパミン濃度が変動しないような治療を選択してきました。
このウェアリング・オフが出てきた1年前は、ドパミンアゴニストを増やしたり、補助薬を追加することで調子の良い時間が都度増えてきましたが、明らかに当初の2年間と比べて調子の変動が目立つようになっていました。薬を増やすことで、当面の脳内ドーパミンは補充され、調子も良くなりますが、時間が経過するとドーパミンが再び不足する状態になってしまう。通院の度に、一日の体調変化に加え、内服のタイミング、睡眠の状況、家事の内容、疲労具合、食事時間、便通の状態など、治療薬の効き目に影響する事柄を伺っては、相談していきました。
当初は「もう少しで薬効が切れてしまうのではないか」という不安、薬効が切れてしまって思うように体を動かせないことへの苛立ち、仕事や家事を思うようにこなせないことへの後ろめたさ、これから将来への不安など、様々な思いが伝わってきました。
ところが、この半年は、治療薬を変えることなく過ごされています。1年前と比較して体調の変動は軽くなっているものの、依然としてまだ変動は残ったままです。それでも、通院の度に拝見する彼女の表情や言葉は1年前よりも吹っ切れたような、自信が垣間見えるような様子です。
お話しを伺うと、毎回内服するタイミングをご自分で振り返り、「薬が切れて調子悪いときに急いで内服するよりも、少し一呼吸・時間をおいて内服するほうが薬の効きがはやく、長く効くようです」とおっしゃいます。予てからドーパミンが減ると「電池切れ」の状態になることをお伝えしてきましたが、この電池切れの様子をご家族が理解できるようになり、「電池切れだから私が手伝うよ」「電池切れてるから後でやったら」とサポートしてくれているのも大きいようです。いい意味で吹っ切れた、頑張らなくても良いと思えるようになったとお話しされます。
治療薬をどこまで増やすか、これは患者さんの希望・生活スタイルによって様々です。彼女は「先々の10年後20年後のために薬をセーブするよりは、今の時間を大切にしたい」とおっしゃいます。日々の目の前の生活、ご家族との時間を大切にしたい気持ちを強く感じます。それでも今は、「オフの時間もあるけれど、以前よりは病気との付き合い方が自分なりに分かってきて、不安や苛立ちも軽くなってきているので、現状でそれなりに満足してやっていける気がします」と先日伝えてくれました。自分なりに納得して毎日を生活し、それでも病気が進んでしまって治療薬を増やすことが必要なときは増やしたい。将来的に脳深部刺激療法などの手術やレボドパの注腸療法(LCIG)の選択肢も彼女にはお話ししています。
なんとも力強い肝っ玉が据わっているとでも言うのでしょうか、病気とご自分の生活に折り合いをつけられている彼女の姿に私も勇気づけられています。きっと、この肝っ玉は彼女の脳内ドーパミンを引き出してくれているはずです。
廣谷 真Makoto Hirotani
札幌パーキンソンMS
神経内科クリニック 院長
【専門分野】神経内科全般とくに多発性硬化症などの免疫性神経疾患、末梢神経疾患
眼瞼けいれん・顔面けいれん・四肢の痙縮に対するボトックス注射も行います。
【趣味・特技】オーケストラ演奏、ジョギング、スポーツ観戦、犬の散歩
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