Dr Makoto’s BLOG

辛抱強く半年間 ~MSと対症療法

多発性硬化症2020.06.14

クリニックに通院されている多発性硬化症(MS)の若い女性患者さん。
先日、いつも付き添われているご家族から嬉しい便りをいただきました。
 
~「頭痛・多汗・しびれ・悪夢もなくぐっすり眠れたのはこの病気と分かってから始めて、何年ぶりだろう」と嬉し涙と笑顔でさわやかに起きてきました

~すべてをあきらめ部屋に閉じこもっていた昨日までが…台所にまで立ち料理をしています、明るい笑顔が目の前にあります
 
彼女にはじめてお会いしたのは昨年秋のことです。その1年前に他院でMSと診断を受け、進行予防の治療が開始されましたが、次第に歩くことが儘ならず、排尿も上手くいかずにトイレへ間に合わなくなってしまいました。また、長年にわたって気分が優れず、頭痛やしびれにも襲われ、部屋に閉じこもってしまう生活が続いていました。
 
第一印象は、凛とした目鼻立ちのスッと通った優しい女性。でも、体調や気分が優れないためか、表情はやや硬く、とても大きなものを抱えている印象を受けました。また、ご家族の自責の念や途方に暮れた様子も犇々と伝わってきます。
 
お話を伺いますと、MSのしびれ・脱力といった症状がだいぶ以前からあったものの、なかなか診断がつかずに時間が経過してしまったようです。また、次第に頭痛や気分の優れなさが加わっていき、さらには歩くことが儘ならなくなって排尿も上手くいかなくなってしまう…気づかずにMSが再発していたために部屋に閉じこもってしまう生活を余儀なくされていました。
 
MSの再発期にステロイド治療を行うということは、色々な情報からも広く知られていることです。まず、彼女へステロイド治療を開始し、効果が出てきてからは歩きがだいぶしっかり安定し、一時は希望が見えてきた様子もありました。
ところが、それでも排尿はまだ十分ではなく、頭痛や気分の優れなさも残ったまま。ずっとこのまま症状が残ってしまうのではという不安や落胆も伝わってきました。
 
このような排尿障害、頭痛や気分の優れなさといったMS症状を和らげる「対症療法」の情報はあまり知られていなく、「MSの症状なのでやむを得ない」と考えられていることも多いのが事実です。このような症状はいくら検査をしても捉えることが難しく、想像を頼りにして治療をすすめていかなければならないためです。
 
まず、排尿障害へは内服薬やカテーテルをつかった導尿によってトイレの問題が解決されました。そして、長年続いてきた頭痛や気分の優れなさ…これは私も試行錯誤しながらではありましたが、最終的にセロトニンやアドレナリンを増やす抗うつ薬に加え、複数の気分調整薬を組み合わせることが功を奏したようです。
 
はじめて彼女とお会いしてから半年が経過しようとしています。彼女とご家族が信じて辛抱強く治療を継続されたことが、なによりも大切なことと感じています。彼女とご家族はこれからもMSと付き合っていく日々が続きますが、私もながく彼女・ご家族と付き合っていきたいと気持ちを新たにしています。
 
 

廣谷 真

廣谷 真Makoto Hirotani

札幌パーキンソンMS
神経内科クリニック 院長

【専門分野】神経内科全般とくに多発性硬化症などの免疫性神経疾患、末梢神経疾患
眼瞼けいれん・顔面けいれん・四肢の痙縮に対するボトックス注射も行います。

【趣味・特技】オーケストラ演奏、ジョギング、スポーツ観戦、犬の散歩