Dr Makoto’s BLOG

症状の進行を防ぐために早い時期から治療したい ~特定医療費制...

神経内科2020.09.20

気付くとすっかり秋らしくなってきています。
陽が暮れるのがはやくなって、帰りも肌寒く感じるようになってきました。
                                                                                                           
パーキンソン病や多発性硬化症など、当院の患者さんでは指定難病医療費受給制度、いわゆる難病手帳を利用している方が多くおられます。医療費自己負担に上限がつくようになる制度で、ながく治療を続けるためにはあると助かるものですから、対象となる方へは診察のなかで申請をすすめています。
 
実は、この受給制度は該当する疾患の患者さんすべてが対象とはなっておらず、一定の重症度を満たさないと認定の対象とはならないのです。パーキンソン病ではホーエン・ヤール分類で3度以上(姿勢反射障害というバランス機能に低下がある方)、多発性硬化症でEDSS分類で4.5(杖を使用せずに300m歩行ができる)以上ではじめて認定するというように、厳密に規定されています。
 
それでは、この重症度に該当しないような、早期や軽症の患者さんは医療費を通常に負担し続けなければならないのでしょうか?「症状の進行を防ぐために早い時期から治療をしたい」と多くの方が感じることですが、如何せん治療によっては医療費が高額となります。そのような方へ指定難病医療費受給制度の「軽症高額該当」という特例があります。
 
この「軽症高額相当」とは、特定医療費の支給認定の要件である重症度分類等を満たさないものの、月ごとの医療費総額が33,330円を超える月が年間3月以上ある患者さんについては、支給認定としますよ、というものです。当院ではとくに多発性硬化症の患者さんへ案内することが多い制度です。
 
先日クリニックへ来られた20代男性の多発性硬化症(MS)患者さん。右半身の重だるさ・しびれを感じるようになったため、クリニックを受診されました。通常の診察に加えて、MRIや血液検査、脳脊髄液検査などを行っていき、MSと考えられることをお伝えします。ステロイド治療を行い、幸い右半身の重だるさ・しびれは回復してきています。一安心も束の間、MSはそのままにしておくとどうしても再発・進行する可能性があるため、現在ははやめに再発・進行予防の治療を導入することが世界的な流れになっています。
 
ただ、MSの再発・進行予防薬は非常に高価なのがネックになります。現在使用できる薬剤は月で20万円強(10割負担)、通常の3割負担でも毎月6-7万円の自己負担が生じてしまいます。再発・症状の進行を防ぐために早い時期から治療を開始したいと思っても、高額のため続けられないことがあっては遣る瀬ません。このような患者さんを対象に、月ごとの医療費総額が33,330円(10割負担)、つまり毎月自己負担が10,000円(3割負担)を超える月が、年に3回以上ある、という実績があれば「軽症高額該当」という特例で医療費受給制度に認定しますよ、というものです。これによって、毎月の医療費自己負担に上限がつくようになり、ながく治療を続けることができるように補助する制度です。
 
この男性患者さんは、最初の来院月で複数の検査などを行っていますので、自己負担が10,000円を超えています。そうすると、あと2回の月で自己負担10,000円を超えると、「軽症高額該当」に認定されるようになります。今後患者さんとは再発・進行予防薬を導入することを話し合っていますが、「高額療養費制度(限度額適用認定証)」を利用して、まずは当面2か月間治療をおこない、「合計3か月・自己負担10,000円以上」という実績をつくることで「軽症高額該当」に認定されるように治療をすすめていきます。そこでやっと指定難病医療費受給制度に登録し、自己負担に上限がつくようになるというものです。
 
なかなか、理解も手続きも複雑ではありますが、「症状の進行を防ぐために早い時期から治療をしたい」という希望・目的には避けて通れない手続きです。該当となる患者さんへはスタッフから丁寧に説明のうえ、案内をしています。
 
ひとつ、忘れてはいけない大切なことが
…かかった医療費を証明するための「領収書をしっかり保管しておくこと」です。

廣谷 真

廣谷 真Makoto Hirotani

札幌パーキンソンMS
神経内科クリニック 院長

【専門分野】神経内科全般とくに多発性硬化症などの免疫性神経疾患、末梢神経疾患
眼瞼けいれん・顔面けいれん・四肢の痙縮に対するボトックス注射も行います。

【趣味・特技】オーケストラ演奏、ジョギング、スポーツ観戦、犬の散歩