Dr Makoto’s BLOG

大きな治療を終えて ~脳深部刺激療法のこと

パーキンソン病2024.11.17

あっと言う間に11月も中旬を迎えました。診察室で診察予約をとるときに、次回は年明けという患者さんも増えてきました…みなさん口々に「いやぁー」と、一年のはやさに驚いておられます。私もまったくの同感です。

クリニックに通院中のパーキンソン病患者さん。働き盛りの男性で、クリニックへ転医されたのが2年ほど前のことです。当時からウェアリング・オフと呼ばれる日内変動があり、レボドパの効果が4時間ほどで減弱してしまっていました。仕事を十分にこなすことが難しくなってしまい、ご家族とともに途方に暮れた様子でした。
 
年々新たなパーキンソン病治療薬が出てきて、治療の選択肢も増えていますが、今となってもレボドパはいちばん効果があります。ところが、レボドパの治療を5年ほど続けていくとウェアリング・オフの可能性が出てきます。レボドパを使用すると、ドーパミン濃度が急に上昇する「パルス刺激」という状態になりやすく、このパルス刺激が長い期間続いていくと、どうしてもドーパミン濃度が不安定になりやすいのです。実際には、パルス刺激が強くならないよう、レボドパの容量を少なめに抑えたり、ドーパミン濃度が均一になるよう、ドパミンアゴニストや補助薬を組み合わせて治療をすすめていきます。
 
彼のウェアリング・オフは、レボドパを一日3回内服していると、その合間に切れてオフが出てしまっていました。レボドパの効果はあるものの、効果が長続きしない状態です。一日1回のドパミンアゴニストや補助薬を調整し、またレボドパを4時間おきに一日4回内服することでオフはだいぶ目立たなくなりました。ところが、薬剤の総量が増えてしまうことで、薬の効いているオンの時間帯を中心に、ジスキネジアと呼ばれるクネクネ身体が動く不随意運動も出るようになっていました。
 
薬と増やすと動ける時間は増えますが、ジスキネジアが出てしまう、一方で薬を減らすとジスキネジアは減りますが、オフ時間が増えてしまう…睡眠時間や便通管理、過労を避けるなど様々な工夫をしてドーパミン濃度が安定するようにしますが、治療が難しくなってしまっている段階です。予てから手術による治療、脳深部刺激療法も提案し、期待される効果や合併症について時間をかけて伝えていきました。患者さん・ご家族も決心がついたようで、脳深部刺激療法を受けることを希望されました。
 
そして、先日無事に脳深部刺激療法の手術が終了し、クリニックへ来院されました。姿勢がすっと伸びて、歩幅が大きくなり、左手の細かな動きもだいぶスムーズになっています。表情がすっきりと明るくなって、口数がだいぶ増え、調子の良さが伺えます。脳深部刺激療法によってドーパミン分泌が促されるため、レボドパをはじめとする薬剤を減量することができ、ジスキネジアはほとんど分からないところまで落ちついています。一方で、脳深部刺激によって若干呂律が回りにくい様子もみられます。
 
これから定期的に脳深部刺激の調整を続けていき、薬剤の調整もしながら、なるべくドーパミン濃度が安定するように治療を続けていきます。無事に大きな治療を終え、彼と家族のホッとした表情と、これから先のことを少し前向きに話している様子が印象的でした。
 

~大雪山・ヒサゴ沼分岐からみるトムラウシ山

廣谷 真

廣谷 真Makoto Hirotani

札幌パーキンソンMS
神経内科クリニック 院長

【専門分野】神経内科全般とくに多発性硬化症などの免疫性神経疾患、末梢神経疾患
眼瞼けいれん・顔面けいれん・四肢の痙縮に対するボトックス注射も行います。

【趣味・特技】オーケストラ演奏、ジョギング、スポーツ観戦、犬の散歩