パーキンソン病2020.09.27
先日クリニックにいらした患者さん。
予てからほかの病気の後遺症で脚の重だるさといった違和感をお持ちでしたが、持ち前の明るさで症状と上手に付き合いながら元気に生活されていました。
ところが、春になってから脚のむずむずする違和感や気分の優れなさなどを感じるようになってしまい、体重も減ってしまったとのことです。もともと内服している血圧や甲状腺の薬などを調整しますが、なかなか良くなりません。
以前に受診した病院で脳内ドーパミンを測定するDATスキャンをおこない、パーキンソン病の診断を伝えられました。ご本人・ご家族ともに驚いた様子で、これからどうなっていくのだろうという不安を強く感じるようになり、眠りも浅くなって体調が優れなくなってしまいました。
クリニックを受診され、拝見しますと、やや不安げな表情ではあるものの、大きくしっかりとした声、会話でもとても人当たりの良い受け答えをされます。手足の動きや歩行もスムーズで、パーキンソン病でみられるような筋肉の硬さもはっきりしません。一見しますと、パーキンソン病らしさははっきりしないのです
他院で実施したDATスキャンでは、ドーパミンの数値も正常範囲内に収まっていて病的な減少とまではいきません。唯一、左側と右側で若干の左右差があるという点がパーキンソン病らしさと言えるものでした。
パーキンソン病では一般的に「ふるえ」「動作緩慢」「筋肉の硬さ」「姿勢バランスのとりにくさ」といった症状が良く知られています。手足がふるえる、歩行が遅くなった、というように具体的な「運動症状」があると、パーキンソン病の診断するのは比較的容易です。ところが、この患者さんのように運動症状ははっきりしないものの、脚のむずむず感や気分の優れなさといった「非運動症状」が疑われ、DATスキャンで脳内ドーパミン分泌が低下傾向にあるとき、果たしてどこまで「パーキンソン病」と言ってよいのか、私も非常に悩むことがあります。
このまま経過をみていくと、やがて手足のふるえや歩行の遅さといった運動症状が出てくるのかもしれませんし、あるいはずっと運動症状が出てこない可能性もあります。DATスキャンでのドーパミン減少傾向をもって「パーキンソン病の初期」と伝えるのが良いのか、あるいは「まだパーキンソン病とまで断定できません」と伝えるのが良いのか、どちらにしても患者さんやご家族は不安を感じることでしょう。
どのように説明をするのがベストか、個人的には、画一的な方法はなく、患者さんやご家族の考え方や精神状態を感じ取りながら、ケースバイケースで対応するように努めています。
と言いますのも、脳内ドーパミンは精神的な緊張や不安によって分泌が低下することも多いため、説明の仕方や患者さん・ご家族の受け止めによっては、その後のドーパミン分泌にも影響することがあるためです。ドーパミン分泌が減少すると、より不安を感じやすくなってしまい、そのためにさらにドーパミンが減る…という循環も懸念しなければなりません。
今回いらした患者さんには「ドーパミン分泌が減っている傾向にありますが、パーキンソン症状がはっきり出ていないため、現状ではパーキンソン病とまで診断するのがとても難しい状態です。脚のむずむず感や気分の優れなさはドーパミン減少の影響も考えられますが、いまはパーキンソン病に対するドーパミンを増やすような治療までは不要で、症状を和らげる薬をつかいながら経過を慎重にみていきましょう」とお伝えしています。ご家族共々、少し気持ちが和らいだ様子で、これから前向きに時間を過ごしていけそうと、明るい表情でクリニックを後にされました。
いつからがパーキンソン病?DATスキャンはとても有効な検査ですが、その解釈の伝え方も改めて大切と感じています。
廣谷 真Makoto Hirotani
札幌パーキンソンMS
神経内科クリニック 院長
【専門分野】神経内科全般とくに多発性硬化症などの免疫性神経疾患、末梢神経疾患
眼瞼けいれん・顔面けいれん・四肢の痙縮に対するボトックス注射も行います。
【趣味・特技】オーケストラ演奏、ジョギング、スポーツ観戦、犬の散歩
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