パーキンソン病2020.10.04
朝夕はめっきりと寒くなり、紅葉の便りもちらほらと耳にするようになりました。
気付いたら秋に突入・・・こんなにはやい一年ははじめてのような気がします。
先日クリニックにいらしたパーキンソン病患者さん。
彼女は数年前に他院でパーキンソン病の診断を受け、レボドパ中心に薬剤での治療が行われてきました。今年にはいって調子が良くないために、前医で2ヶ月ほど入院のうえ薬剤調整やリハビリテーションを受けてこられました。
先日自宅へ退院されましたが、なんとも動きが良くないとのことで、そのままクリニックを初めて受診されました。
御本人・ご家族のお話しを伺いますと、
座っているのが難しく、椅子から落ちてしまう、じっとしていられない
家事をしようと動き回ってしまうので、家族が目を離すことができない
人がいるような気配がする
といった様々な症状に困っておられる様子でした。
パーキンソン病患者さんが「動きが良くない」というときは、
①オフや動作緩慢といったパーキンソン症状が強いとき
②オンであるもののジスキネジアがみられるような薬が効きすぎているとき
大きく分けてこのふたつが挙げられます。
いわゆるオフで薬が効かない状態が「動きが良くない」というのはイメージしやすいかと思いますが、オンで薬が効きすぎいている状態でも「動きが良くない」と感じる方も多くおられるのです。パーキソン病治療薬は適切な量を内服することで、しっかりとした効果が現れて動きやすくなります。ところが、パーキンソン病治療薬の内服期間が長くなったり、治療薬の量が多くなると、副作用としてジスキネジア(手足や体幹がクネクネと勝手に動いてしまう)や多動・おちつきのなさ、幻覚が出てしまうことがあります。
彼女に診察室の椅子へ座っていただき、これまでのお話を伺っていますと、頭や手足が絶えずクネクネと動いてしまいます。加えて体幹もクネクネと動いてしまうため、椅子への腰掛がだんだん浅くなってしまい、終いには椅子からずり落ちてしまいそうになります。顔も勝手に動いてしまうために声が小さくなってしまい、会話内容も聞き取りにくい傾向にあります。椅子から立ち上がると、立った姿勢がなかなか安定せず、歩くとフラフラしてしまいます。
一見して、ジスキネジアが強く、落ち着きのなさや幻覚も伴っていることから、パーキンソン病治療薬が全般に多すぎる印象を受けました。他方で、薬剤性ではないレビー小体型認知症というパーキンソン病関連の疾患でも幻覚や落ち着きのなさがみられますので、どちらが影響しているのか、悩ましい状況でした。
一般的に入院での治療は、環境の変化により幻覚や落ち着きのなさがみられる患者さんには、かえって症状が目立ってくることもありますので、彼女は住み慣れた自宅にいながら外来的に薬剤を調整していくこととしました。
まずは比較的幻覚の副作用が出やすいドパミンアゴニストを中止したところ、翌週の受診時にはだいぶすっきりした表情で、ご家族が目を離しても安心してみていられるようになってきました。それでも、診察中にはまだ頭や手足のジスキネジアが残っており、歩行にも(ジスキネジアによる)フラフラが残っている様子です。ジスキネジアを減らすためには、レボドパの減量が大切になりますが、ここで難しいのは、減らし過ぎてしまうと、いわゆるオフの状態になって動きが悪くなってしまうことです。そこで、これまでの経験を頼りに、レボドパを25%減量したところ、翌週にジスキネジアがきれいになくなりました。顔のジスキネジアもなくなり、声が大きく、表情も豊かになってきました。歩行もしっかりとした足取りで、フラフラする要素もみられません。だいぶものと彼女に戻って来たとのことで、ご本人・ご主人ともに安心しておられました。
「動きが良くない」というときに、ドーパミンが不足しているのか(パーキンソン症状が強い・オフ)、あるいはドーパミンが過剰なのか(薬剤が過多)を見極めて、パーキソンン病治療薬の増量・減量を判断していく必要があります。
前医へ2カ月間入院して調子が優れず、いざ退院するものの自宅での生活が難しいかもしれないと途方に暮れている様子でした。パーキンソン病治療薬を減量し、症状が落ち着き、先が見えてきたことで、もともとの彼女の穏やかな表情を拝見できたことが自分のことのように嬉しく感じました。
廣谷 真Makoto Hirotani
札幌パーキンソンMS
神経内科クリニック 院長
【専門分野】神経内科全般とくに多発性硬化症などの免疫性神経疾患、末梢神経疾患
眼瞼けいれん・顔面けいれん・四肢の痙縮に対するボトックス注射も行います。
【趣味・特技】オーケストラ演奏、ジョギング、スポーツ観戦、犬の散歩
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