パーキンソン病2021.03.14
暖かい日が続くようになり、雪解けが一気にすすんできています。はやくも東京では桜の開花宣言が出されましたね。
札幌も例年より早い4月28日頃に開花が予想されているようで、ちょっと気長にカウントダウンを始めてみようと思っています。
先日クリニックにいらしたパーキンソン病患者さん。彼は仕事の現役真っ只中で、職場のまとめ役として活躍されています。
パーキンソン病と診断されて間もなく、クリニックに来られました。
彼がとくに困っていることに、「気力が湧かなくなった」、「頭の回転が遅くなった」と話されます。仕事では、会議を終えた途端に頭の回転が遅くなってしまい、どっと疲れが襲ってくるとのこと。もともとははつらつとした声で、口数も多かったようですが、診察室で話をしていますと、以前とはだいぶ変わった様子が伝わってきます。右側に目立つ筋肉の硬さがあり、脳内ドーパミン分泌を反映するDATスキャンではドーパミントランスポーターが減少しています。パーキンソン病として、運動症状に加え、非運動症状が目立っている模様です。
クリニックに来られる前に、ドーパミンを補充するレボドパの治療が毎食後に少量から開始されていました。それでも彼はレボドパの効果を十分に感じることができず、どうしても昼前や夕方、そして会議の後に頭の回転が遅くなり、疲れやすくなってしまうようでした。治療薬を内服しているのに思っているように体調が回復しないこと、そして体調に波があること、さらには今後の仕事や生活への不安をお持ちのように映ります。
パーキンソン病で減少する脳内ドーパミン。減少の程度は患者さんによって実に異なり、補充に十分な治療薬の量も患者さんによって変わってきます。パーキンソン病ではドーパミン神経細胞が減少することで、ドーパミンの基礎的な分泌が低下することが最大の原因です。それに加えて大切なことは、ドーパミンは24時間リアルタイムに増えたり・減ったりと変動するということです。
実は、このドーパミンが消費され減少するタイミングのひとつに、「疲労」があると考えています。これは身体を動かすことによる疲労もあれば、頭をつかったり・精神的な緊張による疲労もあります。
彼のように会議などで集中力をつかうと、疲労によってドーパミンが消費され減少してしまう。仕事をされている方は、疲労が溜まらないように仕事内容の見直しも選択肢ではありますが、十分なパフォーマンスを求めるとなると、その分ドーパミン補充に必要な治療薬を多めに設定する傾向になります。
比較的若年の彼は、今後長期間にわたり安定してドーパミンが補充されるようにドーパミンアゴニストを導入することになりました。十分にドーパミンが補充されると、おそらく会議の後の不調は軽減していくのではと考えています。一日の体調の波は、内服時間(レボドパは当初5-6時間の薬効があります)や疲労具合である程度予測できますので、不調が目立つときには、次回から内服の時間を多少ずらしたり、会議の時間や長さを修正することで、体調の波がだんだん小さくなっていき、安定していくはずです。
ドーパミンの収入:治療薬と睡眠でドーパミンをしっかりたくわえる
ドーパミンの支出:疲労をうまく分散したり、最小限にとどめ、ドーパミンの電池切れを防ぐ
こういうメカニズムをイメージして、睡眠時間、内服のタイミング、疲労具合を試行錯誤しながら調整していき、満足できる塩梅を探っていくのが、彼の当面の目標となるように感じています。そのために引き続きサポートして参ります。
廣谷 真Makoto Hirotani
札幌パーキンソンMS
神経内科クリニック 院長
【専門分野】神経内科全般とくに多発性硬化症などの免疫性神経疾患、末梢神経疾患
眼瞼けいれん・顔面けいれん・四肢の痙縮に対するボトックス注射も行います。
【趣味・特技】オーケストラ演奏、ジョギング、スポーツ観戦、犬の散歩
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