神経内科2021.03.28
今年に入ってクリニックにこられたパーキンソン病患者さん。
働き盛りの会社員男性で、1年前より左手がふるえ、つかいにくくなってきたためにクリニックに来られました。
日常生活は一通り何とかこなせていますが、長時間の作業がつづく仕事では、やはり手のつかいにくさや疲れやすさを感じてしまう様子です。いわゆる「ドクターストップ」で仕事が続けられない状況ではなく、重労働や疲労を避けることを意識しながら、治療を開始していくこととなりました。ところが、先日クリニックに来られたときに、「現在休職中で、職場から体調の保障が出来ないと言われ、今後退職することになりました」と伺いました。
今後の生活や仕事をどのようにしていくか、まったく先が見えない今の状況に、ご家族ともに途方に暮れておられる様子です。ご家族は実家のある故郷に戻ることも提案されていましたが、彼は新たに仕事を探して、今の土地での生活を続けていきたいとの希望をお持ちです。
患者さん・ご家族と相談をすすめながら、一定の生活が保障されるように、まずは傷病手当金を申請することとなりました。退職後もふくめ最長18カ月の期間は、給与の約2/3が支給される仕組みです。その保障のもと、まずは薬剤治療とリハビリテーションに専念し、手のつかいにくさや疲れやすさといった症状の改善具合をみながら、将来的な就職について都度相談していくことを提案しています。
このように、就労中の患者さんが病気のために働くことが難しくなった場合、生活の保障のために、どのような公的制度を利用できるのでしょうか?
実は、会社員などが利用する「健康保険」と、自営業の方が利用する「国民健康保険」では、利用できる制度や支給額がだいぶ異なってくるのです。
①健康保険に加入している患者さんが、病気のために働くことができなくなった場合
□まずは、企業の有給休暇を利用して、健康なときと同様の給与支給を受けることができます。
□有給休暇を使い切った後には、健康保険から「傷病手当金」の支給を受けることができます。約2/3の給与が、最長18カ月にわたって保証されます。在職中に支給を受けた傷病手当金は、仮に病気のために退職した後でも最長18カ月まで保障されます。
□傷病手当金支給の18カ月が経過した後に、障害が残ってしまった場合は、障害の程度に応じて障害厚生年金(厚生年金)・障害基礎年金(国民年金)の支給を受けることができます。
このように、健康保険では「傷病手当金(18カ月まで)」「障害厚生年金・障害基礎年金(18カ月以降)」から生活費が保証される仕組みになっています。
②国民健康保険に加入している患者さんが、病気のために働くことができなくなった場合
□個人で仕事をされている方は、一般的に有給休暇がありません。
□健康保険で保障されている「傷病手当金」がありません。
□障害が残ってしまった場合は、障害の程度に応じて障害基礎年金(国民年金)の支給を受けることができます。ただし、障害厚生年金は支給されませんので、支給額は限定されてしまいます。
このように、国民健康保険を利用している場合は、傷病手当金の支給を受けられず、障害年金の支給額も限定されてしまいます。
ところで、民間の生命保険、健康保険には実にたくさんの種類があります。多くは入院治療や外来通院治療にかかる金額が保障されますが、症状によって働くことが難しくなったときの生活金を保障する保険もあるようです。
パーキンソン病など神経難病の患者さんは、病気とながく付き合っていくなかで、仕事に制約が出てしまうときに、生活に必要なお金をどのように確保するか?これは避けて通れない課題となっていきます。国民健康保険に加入されている現役世代の患者さんには、このような民間の保険にあらかじめ加入していたおかげで、生活の基盤が確保され、安心して治療に専念できている方もおられます。
廣谷 真Makoto Hirotani
札幌パーキンソンMS
神経内科クリニック 院長
【専門分野】神経内科全般とくに多発性硬化症などの免疫性神経疾患、末梢神経疾患
眼瞼けいれん・顔面けいれん・四肢の痙縮に対するボトックス注射も行います。
【趣味・特技】オーケストラ演奏、ジョギング、スポーツ観戦、犬の散歩
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