パーキンソン病2021.07.12
パーキンソン病で通院している患者さん。
昨年の秋に、右手がふるえ、全体に元気がなく表情に覇気がないために、クリニックで初めてお会いしました。すでにパーキンソン病の診断で薬剤治療を受けておられましたが、なかなか良くならず、さらには、夕方になると周り5-6人くらい人がみえるようになったため、患者さんはもとよりご家族も心配で不安が強い様子でした。
パーキンソン病患者さんの中には、ときどき「何人かの人がみえる」と話す患者さんがおられます。実際にはいないものや人が見える、いわゆる「幻視」というもので、伺うとかなり鮮明にその様子を話すことが出来ることが特徴です。具体的には、小さな子供から30歳代くらいまでの比較的若い人が見え、5-6人くらいが部屋にずっと立っていることが多いようです。幸い、話しかけてきたりすることは少なく、多くの患者さんが怖さを感じることはないようです。
どうしてこのような幻覚が出てくるのでしょうか?大きく分けてふたつの原因があり、ひとつは「パーキンソン病治療薬の副作用による幻覚」、もうひとつはパーキンソン病をふくむ「レビー小体病」という病気そのものからくる幻覚です。
「パーキンソン病治療薬の副作用による幻覚」の場合は、パーキンソン病治療薬を増量したり、発熱などの体調不良をきっかけに、これまでなかった幻覚が比較的急に出ることが多い印象を持っています。このような場合には、一時的にパーキンソン病治療薬を減量したり、原因となる体調不良を治療することで、幻覚が落ち着く方が多いです。
一方で、「レビー小体病」からくる幻覚の場合には、パーキンソン病治療薬を減量してもなかなか落ち着かないことが多い印象を持っています。この「レビー小体病」とは、脳にレビー小体というタンパク質が溜まってしまう病気のことで、簡単に言いますと、中脳という脳の奥の方を中心にレビー小体が溜まる「パーキンソン病」、大脳皮質という脳の表面の方を中心にレビー小体が溜まる「レビー小体型認知症」に分けられます。共通しているのはレビー小体というタンパク質が脳に溜まるということ、つまり、レビー小体の溜まる場所よってパーキンソン病症状になることもあれば、レビー小体型認知症状になることもあるということです。
幻覚が続くことは好ましいことでありませんので、この二つのどちらかを考えて治療をすすめていきます。とても難しい点は、パーキンソン病治療薬をあまり減らしてしまうと、パーキンソン病症状のふるえや、動作の調子が悪くなってしまうことです。そこで、脳血流シンチグラフィー(SPECT)という脳血流を調べる検査をすることで、「パーキンソン病治療薬の副作用による幻覚」なのか、「レビー小体病」からくる幻覚かを見分けることも可能です。
紹介した患者さんは、直近にパーキンソン病治療薬が増量されたこともなく、とくに発熱などの体調不良もありませんでした。「パーキンソン病治療薬の副作用による幻覚」ではなさそうです。そこで脳血流検査を行ったところ、脳の後頭葉という大脳皮質の血流が下がっていて、「レビー小体病」による幻覚と考えられました。少量のパーキンソン病治療薬を内服しながら、食事や内服、睡眠のリズムをしっかり整えていき、診察の度に幻覚の出やすい時間帯や細かな幻覚の内容を確認していきます。幻覚がまだ残ってはいますが、幻覚の原因や対処法を少しずつ理解して納得していくことで、患者さんやご家族の不安がだいぶ軽くなってきた様子です。
つい先日、アルツハイマー病の脳に溜まるタンパク質、アミロイドβを減らす新薬がアメリカで承認されたことが大きなニュースとなりました。
パーキンソン病をふくむレビー小体病の脳に溜まるタンパク質、レビー小体を減らす新薬の研究もすすんでいます。実用化されればふるえや動きといった運動症状、さらには幻覚が軽くなることも期待したいものです。
廣谷 真Makoto Hirotani
札幌パーキンソンMS
神経内科クリニック 院長
【専門分野】神経内科全般とくに多発性硬化症などの免疫性神経疾患、末梢神経疾患
眼瞼けいれん・顔面けいれん・四肢の痙縮に対するボトックス注射も行います。
【趣味・特技】オーケストラ演奏、ジョギング、スポーツ観戦、犬の散歩
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