パーキンソン病2021.12.26
ツルツル路面と睨めっこしていると、ついつい腰が引けてしまいます…。一気に冬がやってきて、気付けば今年もあと僅かになりました。
クリニックに通って半年ほどになるパーキンソン病患者さん。
彼女は数年前にパーキンソン病の診断を受け、他院で薬剤治療を受けてこられました。とくにこの1年は体調の優れない日々が続き、手足の振戦が目立ち、不眠がちとなって四六時中頭がフワーッとするようになってしまいました。不安も感じやすくなって、家事をこなすことも難しくなり、就労中のご主人がなんとか懸命にサポートしてこられました。
クリニックへ転医してきた患者さんには、薬の効き具合、つまり「薬が効いてきたのを感じるか」「薬が切れてきたのを感じるか」を尋ねるようにしています。
一般的に、レボドパはドパミンアゴニストや他剤と比較して効果を感じやすく、多くの患者さんは、内服して20分から60分くらいで動きや振戦が良くなっていくことで、「薬が効いてきた」と実感されるようです。一方で、内服して4時間から5時間くらいで動きや振戦の調子が下がっていくことで、「薬が切れてきた」と実感されることもあります。
彼女がクリニックに初めて来られたとき、レボドパを1日3回内服していたのですが、「薬の効きは全然わからない」と言っていたのを覚えています。治療をすすめていくにあたって、彼女にレボドパが本当に効いていないのか、あるいはレボドパが効いていても効果を実感できていないだけなのかを、しっかり見極めることが大切です。なぜなら、「効いていない」と感じられる薬剤をただ増やしていくだけでは、なかなか満足な治療効果に結びつかないことが多いためです。
まずは、クリニックへ通いはじめてから最初の1-2か月、「薬の効きは全然わからない」という彼女が受診したときの様子を細かく観察していきます。振戦が強く、会話をすると振れ幅が大きくなっていき、すくみ足のためにバランスが崩れやすい受診日もある一方で、比較的振戦が軽く、歩幅が維持できている受診日もありました。彼女の抱えていた不眠や便秘、不安症状はパーキンソン症状に大きく影響しますが、それを差し引いても、レボドパの効果はしっかりあると、私は判断できました。
様々な方面から生活のアドバイスをおこない、睡眠のコントロールもすすめていきます。そして、クリニックへ通い始めて3か月たった頃から、次第に「昼前と夕方に気持ちが不安定になって、振戦や動きの調子が悪くなる気がする」という言葉が聞かれるようになってきました。つまり、「薬が切れてきた」のを、彼女が実感できるようになってきたのです。
そうなると、レボドパの調整によって、逆に治療の効果を実感しやすくなるはずです。1日3回内服していたレボドパを、1日4回・4時間おきの内服へ変更したところ、彼女は「薬が切れることがなくなって、1日通じて薬の効果がつながるようになりました」と、初めて薬の効き目を実感できるようになりました。今となっては「レボドパを4時間おきに内服しないと調子が悪くなるので、時間を守ってしっかり内服しています」と、だいぶ明るくなった表情で話しておられます。
ごく少量の睡眠導入剤と、レボドパを1錠追加しただけですが、この半年で見違えるように元気になった彼女。薬の効果を実感できるというのは、精神的にも支えになるようで、今では診察室で冗談を言う余裕もでてきています。
これまで常にサポートしておられるご主人の安堵した表情がとても印象的です。おふたりでどうか穏やかな新年を迎えられますように。
廣谷 真Makoto Hirotani
札幌パーキンソンMS
神経内科クリニック 院長
【専門分野】神経内科全般とくに多発性硬化症などの免疫性神経疾患、末梢神経疾患
眼瞼けいれん・顔面けいれん・四肢の痙縮に対するボトックス注射も行います。
【趣味・特技】オーケストラ演奏、ジョギング、スポーツ観戦、犬の散歩
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