Dr Makoto’s BLOG

気を付けるのに早すぎることはない ~パーキンソン病と飲み込み

パーキンソン病2022.03.13

だいぶ暖かい日が増え、大きな道路では路面がくっきり見えるようになりました。
一本中に入ると、まだまだデコボコの道が続いており、神経をすり減らしながら歩いていきますが、これももう少しの辛抱でしょうか。春はすぐそこです。
 
みなさんが毎日していることのひとつ、「嚥下」。
食べ物や水分を口に入れて、噛んで、食道から胃へむけて流す「飲み込み」のことで、一日にだいたい600回は嚥下をしていると言われています。
パーキンソン病をふくむ神経難病の患者さんでは、程度の差こそあれ、なんらかの嚥下障害を伴っている方が多いようです。「食事や水分をとるときにムセる」、これは嚥下障害でいちばんわかりやすいエピソードです。ムセのほかにも、飲み込みに時間がかかってきた、硬いものを食べにくくなってきた、痩せてきた、口の中に食べ物が残るようになってきた、このようなエピソードも嚥下障害と関係すると言われています。
 
適切に治療を受けておられるパーキンソン病患者さんでは、急にパーキンソン病症状が進行することは少ないと感じています。パーキンソン病患者さんが急に体調を崩すときは、骨折と誤嚥性肺炎のときが多いため、日頃から「転んで骨折」と「ムセて肺炎」に気を付けましょうとお伝えしています。
 
それでは、いったいこの誤嚥はいつ頃から気を付けるとよいのでしょうか?
実は、パーキンソン病と診断されてから数年の比較的初期の患者さんでも、ご自分で気づかないだけで嚥下のはたらきが下がっている患者さんが多くおられます。簡単にチェックする方法として、「唾液を30秒間に何回飲み込めるか」という方法があり、3回以上飲み込みができれば、嚥下のはたらきはひとまず保たれているようです。そのほかにも、テレビをみながらの食事で注意がそれていないか、顎を引くといった食べるときの姿勢、一回に口に入れる食事の量、薬が効いている時間帯かどうか、などなど、実に多くのことがパーキンソン病患者さんの嚥下に影響すると言われています。
 
クリニックの言語聴覚士スタッフが、当院の患者さんに協力をいただきながら研究を行ったところ、嚥下障害の自覚がないパーキンソン病患者さんのなかにも、実は嚥下機能が下がっている患者さんが一定数おられることがわかりました。パーキンソン病の早い段階から、嚥下のはたらきをしっかり保っていくために、治療やリハビリテーションなどの取り組みが重要と報告しています。手前味噌ではありますが、日々の診療のなかでこのような研究をすすめ、患者さんへ還元していくことは素晴らしいと感じています。
 
パーキンソン病をふくむ神経難病患者さんの嚥下は、気を付けるのに早すぎることはない。診察室でもお話ししていることのひとつで、患者さんはもちろん、ご家族の方にも頭の隅にいれていただきたいことのひとつです。
 

 

廣谷 真

廣谷 真Makoto Hirotani

札幌パーキンソンMS
神経内科クリニック 院長

【専門分野】神経内科全般とくに多発性硬化症などの免疫性神経疾患、末梢神経疾患
眼瞼けいれん・顔面けいれん・四肢の痙縮に対するボトックス注射も行います。

【趣味・特技】オーケストラ演奏、ジョギング、スポーツ観戦、犬の散歩