Dr Makoto’s BLOG

時間によって変わる痛み ~痛みとパーキンソン病

パーキンソン病2022.03.28

週末はベランダを開けっ放しにしても心地よい、ポカポカ陽気に恵まれました。
東京の桜に満開宣言が出されたようで、北海道の桜もカウントダウンに入っていきますね。
 
先日クリニックにいらしたパーキンソン病患者さん。
働き盛りの男性で、パーキンソン病の治療を続けながら一家の大黒柱として日々頑張っておられます。ところが、ここ数年は耐えがたいからだの痛みのために、仕事が儘ならなくなっています。そのため、今回はご家族と一緒に、遠くからクリニックへ来られました。
 
クリニックに来院した時間帯はパーキンソン病の治療薬も効いていて、強い痛みもなく、まずまず調子がよいとのこと。拝見しますと、左側中心に筋肉のこわばり(固縮)がみられ、歩く姿では左側の腕が上手に振れていませんが、会話や立ち上がりなどの動作は一通りできる様子です。くわしくお話を伺いますと、だいたい決まって14時過ぎから左半身に強い痛みを覚え、夕方にかけて思うように仕事ができなくなってしまいます。これまで内科で様々な検査を受けてきましたが、どれも異常はないと言われ、痛みの原因がわからず途方に暮れた様子です。
 
午前中から昼にかけては、朝に内服しているレボドパが効いているようですが、どうやら昼に内服するレボドパの効果が十分ではなく、ドーパミン減少による左半身の痛みが出ているようです。パーキンソン病患者さんは約6割の方に何らかの痛みが出るとも言われていて、様々な理由が考えられています。その理由のひとつに、ドーパミン濃度が減少することで、いわゆる「オフ状態」となるために痛みを伴うことがあります。そのような場合には、一般的にパーキンソン症状の強い側に痛みが出やすく、彼の場合にも、固縮が目立つ左側に痛みを感じるようになっていました。
 
一般的にレボドパを開始した頃は、ドーパミン濃度が少なくとも5-6時間しっかり維持されますので、レボドパを一日3回内服すると一日を通じて安定した効果が出てきます。ところが、レボドパを開始して3-5年ほど経過しますと、ドーパミン濃度が下がりやすくなるために、3-4時間ほどで効果が切れてしまい、いわゆる「オフ状態」が出やすくなります。オフ状態では、からだの動きが遅くなる、ふるえが強くなるといった症状に加えて、痛みも出てしまうことがあります。
 
痛みの原因がわからずに、仕事や生活に支障を来す日々が続いていってしまう…彼もご家族も不安いっぱいの様子でした。まずは耐えがたい痛みがパーキンソン病から来ている可能性をお伝えしました。そして、レボドパの内服時間を調整し、ドーパミン濃度が24時間安定しやすいドパミンアゴニストを導入することにしました。
きっとドーパミン濃度が安定してくることで、痛みもだいぶ楽になってくるはずです。帰り際の、彼とご家族の少しホッとした表情が印象的でした。
 

 

廣谷 真

廣谷 真Makoto Hirotani

札幌パーキンソンMS
神経内科クリニック 院長

【専門分野】神経内科全般とくに多発性硬化症などの免疫性神経疾患、末梢神経疾患
眼瞼けいれん・顔面けいれん・四肢の痙縮に対するボトックス注射も行います。

【趣味・特技】オーケストラ演奏、ジョギング、スポーツ観戦、犬の散歩