パーキンソン病2023.02.26
パーキンソン病患者さんのなかには、とくに不安を感じやすい方がおられます。お話を聞きますと、不安を感じるような特定の原因や対象があるのではなく、急に漠然と不安を感じやすくなる時間が出てくるようです。そして、そのほとんどが薬の切れる時間、レボドパの効き目が下がってくるタイミングに出てくるようです。
パーキンソン病で治療が開始されてしばらく経つと、ウェアリング・オフ現象と呼ばれる、レボドパ効果の変動がみられることがあります。パーキンソン病治療薬のレボドパは薬効が5-6時間とも言われ、一日に安定した効果を発揮するためには、一日3回程度の内服が必要な薬剤です。このレボドパが安定して効果を発揮すると、一日を通じてドパミン濃度が安定していき、波のない、安定した状態を維持することができるようになります。この状態をなるべくながく維持できるように、レボドパ濃度を安定させることが大切です。そのためには、レボドパのほかに一日1回内服で安定しやすいドパミンアゴニストやMAO-B阻害薬などの補助薬を組み合わせること、安定した睡眠や便通コントロールが重要であることはこれまでも触れてきました。それでも、治療が開始から5年ほど経つと、レボドパの効き目が変動する、ウェアリング・オフ現象がでてくることがあります。
このウェアリング・オフ現象、レボドパを内服してから30~60分ほど経ってドパミン濃度が上がっていき、効果が出てくるオンという時間帯に入ります。ところが、2-3時間ほど経つとドパミン濃度が下がってきてしまい、効果が減少するオフという時間帯に入ってしまうようになります。このドパミン濃度の上がり下がりが、パーキンソン病患者さんにとって大きな負担となり、とくにオフになるタイミングで不安を感じやすくなることが多いようです。
オフに入ってしまうと不安で居ても立っても居られなくなり、止むを得ず次のレボドパを繰り上げて早めに内服してしまう患者さんもおられます。繰り上げてレボドパを内服すると、やがてドパミン濃度が上がっていき、オンに入っていきますので不安は和らぎますが、やがてまた2-3時間経つとドパミン濃度が下がってしまいオフに入ってしまう…とても辛いドパミン濃度の上がり下がりが一日に何度もやってきてしまいます。このようなウェアリング・オフ現象では、レボドパを一日4回・5回と細かく分割して内服する方法もひとつではありますが、レボドパの回数を増やしてもまた同様に効果が減弱してしまうことが悩ましい課題です。
オフ時にみられる不安は、脳内ドパミンのほかにセロトニンが減少することも影響すると考えられています。この不安を、セロトニンを補充する薬剤で落ち着かせることで、レボドパが増えていくのをを抑えることもひとつの方法です。レボドパはパーキンソン病の基本となる治療薬で、ながく大切に使っていきたい薬剤です。パーキンソン病患者さんが感じる不安症状は、その多くが、気持ちを強くもちなさいといった精神論だけでは対処できるものではありません。この不安症状を適切に治療していくことは、ながいパーキンソン病治療で、レボドパをながく大切に使うためにも重要なことと感じています。
廣谷 真Makoto Hirotani
札幌パーキンソンMS
神経内科クリニック 院長
【専門分野】神経内科全般とくに多発性硬化症などの免疫性神経疾患、末梢神経疾患
眼瞼けいれん・顔面けいれん・四肢の痙縮に対するボトックス注射も行います。
【趣味・特技】オーケストラ演奏、ジョギング、スポーツ観戦、犬の散歩
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