Dr Makoto’s BLOG

初期にどこまで薬を調整するか ~リハビリテーション導入の目安

パーキンソン病2023.03.12

連日盛り上がっているワールドベースボールクラシック・WBCから元気をもらっている方も多いのではないでしょうか?待ちに待った大谷翔平選手の特大ホームラン、東京ドームで自身の看板広告にボールを当てるなんて、あたかも漫画のような世界で夢がありますね。
 
先日クリニックにいらしたパーキンソン病患者さん。
働き盛りの男性で、家族の大黒柱として毎日忙しく過ごしておられます。おもに左半身の重だるさと、作業するときのふるえのために、生活や仕事に影響が出てしまうようになりました。拝見しますと左の肩甲骨から上腕につよい筋肉のこわばり(固縮)があり、無意識のうちに左半身に力がはいってしまいます。一見ふるえは目立ちませんが、左手を伸ばしたり、キーボード操作のときに細かなふるえがみられます。DATスキャンの検査では脳内ドーパミントランスポーターが低下しており、パーキンソン病としてレボドパから治療が開始となりました。
 
レボドパを300㎎まで増量し、1か月半経った先日、彼は左半身の重だるさは軽くなったと実感しておられました。それでもまだ左手の重だるさや動作時の左手のふるえに困っておられる様子です。実際に診察しますと、左の肩甲骨から上腕のこわばり(固縮)は少し軽くなってきましたが、未だ残っています。
 
診断がついて間もないパーキンソン病患者さんでは、基本的にレボドパの増量は300㎎までとしています(私個人の考えです)。多くの場合は、レボドパ300㎎の治療を3カ月ほど続けると一定の効果が出てきます。これは、レボドパ300㎎で脳内ドーパミンは十分に補充されることが多いと感じているためです。10年後、20年後もなるべく安定した病状を維持できるよう、レボドパは大切に大切に使用していくことが大切です。
 
先日の診察では、左手のふるえをターゲットにゾニサミドという補助薬を追加し、1か月ほど治療経過をみていくこととしています。1か月後は最初のレボドパ開始から3か月、ちょうど効果が安定してくる時期になります。そのときに、もし左手の重だるさやふるえが残るような場合には、リハビリテーションの追加を今から提案しています。
 
薬剤治療によって脳内ドーパミンが補充されていき、その結果、固縮やふるえがすっかり良くなるのが治療の理想です。ところが、レボドパなどで脳内ドーパミンが補充されても、必ずしも固縮が十分とれるとは限らないように感じています。ドーパミンが補充されるまで長い時間かけて蓄積してきた固縮は、いざドーパミンが補充されてもなかなかすぐにはとれないのです。このようなときに、「薬が効いていない」と思ってさらに薬剤を追加してしまうと、ますます「薬が効いていない」と感じるようになり、治療満足度が高まっていきません。

レボドパ300mg・3カ月の治療で、一定の効果が得られるはずです。それでも固縮が残ってしまうときには、治療のアプローチを変え、リハビリテーションで直接筋肉の硬さを和らげていく作業が大切です。そうして治療満足度が高まっていくと、ご自身の脳から分泌されるドーパミンも安定してくると信じています。
 

~藻岩山からみる豊平川と札幌市街 

廣谷 真

廣谷 真Makoto Hirotani

札幌パーキンソンMS
神経内科クリニック 院長

【専門分野】神経内科全般とくに多発性硬化症などの免疫性神経疾患、末梢神経疾患
眼瞼けいれん・顔面けいれん・四肢の痙縮に対するボトックス注射も行います。

【趣味・特技】オーケストラ演奏、ジョギング、スポーツ観戦、犬の散歩