Dr Makoto’s BLOG

どれくらいで効いて、どれくらいの間効いて、切れてくるか 

パーキンソン病2023.11.04

みなさまのおかげをもちまして、札幌パーキンソンMS神経内科クリニックは開院7周年を迎えることができました。

綺麗な紅葉に見とれていたのも束の間、気付くとあっと言う間に落葉がすすんでしまっています。1か月ちょっとでしょうか、これから積雪になるまでの時期はモノトーンな風景が続いていきます。はやく雪が降って白い色が欲しいような、まだまだ降って欲しくないような…なんとも悩ましい季節です。
 
診察室ではパーキンソン病で治療中の患者さんに、色々な質問をしています。まずは、「今日の体調はどうですか?」「この1か月の様子はどうでしたか?」というような大きな質問をすることが多いです。
そして、レボドパを3回内服している患者さんには次のような質問をしていきます。
「レボドパを内服して薬の立ち上がりにどれくらいの時間がかかりますか?」「立ち上がったレボドパは正味どれくらいの間効いて、そして切れていきますか?」
 
この質問への患者さんの答えは様々です。「1日中ずっと同じ体調なので良く分かりません」「朝に内服をしてから30分くらいで立ち上がって、その後はずっと効いています」「立ち上がりに1時間以上かかって、そのあと2時間くらいしか効果が続かずに薬が切れていきます」「内服しても効いていてこないときもあります」。どれも患者さんの本音で、今内服しているレボドパの効きを見定めるのにとても大切な情報です。
 
パーキンソン病患者さんの脳で減っているドーパミンが、レボドパで補充され、ドーパミン濃度が上昇していくと、患者さんは効果を実感できるようになります。ふるえが軽くなる、動きやすくなる、頭がすっきりする…。この「効いている」という実感がすごく大切です。パーキンソン病の治療を開始した早期から、私は患者さんへ「立ち上がりの時間、効いている時間、切れる時間」を訪ねるようにしています。
 
一般的にレボドパは1回内服すると5-6時間ほど効果が続きます。レボドパを一日3回内服していると、朝のレボドパが効き始めてからは、昼と夜にレボドパを補充していくと、日中は安定したドーパミン濃度が維持されるため、あまり効果の波を感じないという方が多いです。「一日中ずっと同じ体調なので良く分かりません」実はこれが理想の状態なのです。この状態はレボドパ治療を始めてから1-3年ほどの、比較的治療歴が短い患者さんに多く、ハネムーン期とも呼ばれます。
 
ところが、もう少し治療期間が長くなってくると、「内服4時間くらいでレボドパが切れてしまい、身体がだるく感じる、気分が優れなくなる」「内服しても立ち上がりに1時間以上かかる」という声を聞くようになります。レボドパの効果が弱まってしまうことで、5-6時間まで持たずに4時間ほどでドーパミン濃度が下がってしまう、そしてドーパミン濃度が下がった状態でレボドパを内服しても濃度がスッと立ちあがってこないため効いてくるのに1時間以上かかるようになってしまいます。多くの患者さんは「昼前の11時過ぎと夕方16時過ぎに薬が切れてくる」と実感されることが多いようです。これはウェアリング・オフ現象ともよばれる日内変動で、レボドパの血中濃度が変動しやすくなってしまった状態です。
 
このウェアリング・オフへは様々な治療や対処方法があります。レボドパを一日4回と細かく内服したり、あるいは補助薬を追加するといった薬剤の調整はもちろんのこと、動き過ぎてドーパミンが電池切れしないように活動を少しセーブすることも役立ちます。内服を食前に変えて薬剤の立ち上がりを良くする(この場合はその分早く切れてしまうことが多いようです)こと、便通を整えて薬剤がしっかり吸収されやすい胃腸の状態にすることも大切です。さらに、しっかり6時間の睡眠をとって脳内ドーパミンを増やすことで、なるべくレボドパ頼みにならないようにすることも大切です。
 
パーキンソン病の治療効果は、なかなかわかりにくいことが多いのです。身体の動きがスムーズか、振戦が軽くなるか、といったように症状を細かく観察することも大切です。そして、それと同じくらい「どれくらいで効いて、どれくらいの間効いて、切れてくるか」という時間軸も意識してみることをお勧めします。調子のよくない時間帯を感じているとき、どのように対策していくか、診察室で患者さんと一緒に探っている日々です。
 
 
~藻岩山の登山道と紅葉
 

廣谷 真

廣谷 真Makoto Hirotani

札幌パーキンソンMS
神経内科クリニック 院長

【専門分野】神経内科全般とくに多発性硬化症などの免疫性神経疾患、末梢神経疾患
眼瞼けいれん・顔面けいれん・四肢の痙縮に対するボトックス注射も行います。

【趣味・特技】オーケストラ演奏、ジョギング、スポーツ観戦、犬の散歩