パーキンソン病2024.01.14
新年が始動するのにあわせて、札幌にも雪が積もるようになり、いよいよ北海道らしい冬になってきました。クリニックに通院される患者さんの足元や、訪問リハビリステーションスタッフの運転が気がかりな季節になっています。どうかくれぐれもご自愛ください。
クリニックに通院して半年になるパーキンソン病患者さん。とても雰囲気のあるご自分のお店で、自家製のケーキなどを提供しておられます。
ケーキをつくるというのは、手で粉を混ぜたり、ヘラや刷毛でクリームを塗ったり、細かい飾りつけをしたり…とても大変な作業と想像しますが、2年ほど前からこれらの作業が次第に難しくなってしまいました。複数の医療機関を受診しますが原因がわからず、次第に体調も優れなくなってしまったため、クリニックに来たときには不安がとても強い様子でした。
拝見しますと、筋肉のこわばりのため腕や手の細かな動作を行うことができず、立った時には姿勢バランスも保ちにくく、足はひきずり気味の歩行になってしまっています。診察の所見や脳内ドーパミンを調べるDATスキャンの結果などから、パーキンソン病と考えられることをお伝えしました。
はじめてお会いしたときから、彼女は「お店をまた再開したい」という、はっきりとした目標を持っておられました。すぐさま薬剤治療とリハビリテーションがスタートしました。まずはレボドパを少量から開始し、1か月ほど経つと少しずつこわばりはとれていきますが、まだまだ身体のだるさを感じておられ、日常生活をこなすのにいっぱいの様子です。彼女も少しずつ体調が良くなっている実感をお持ちですが、目標の「お店を再開する」までの実感を持てず、焦りを感じているのも伝わってきます。
パーキンソン病治療薬のなかでも、レボドパは即効性が高い薬剤です。そのため、私の感覚としては1か月ほどレボドパの治療をすすめていくと、将来的にどれくらい回復が期待できるかが見えてきます。そして、スタッフ間でも検討を重ね、レボドパを300㎎まで増量し、MAO-B阻害薬を併用、そして週2回のリハビリテーションを継続していくことで、「半年後を目標にお店を再開できるように治療を続けていきましょう」と彼女へお伝えしました。
具体的な目標があり、そして達成時期もみえてくると、すごく心強いものです。彼女はそこからも地道にリハビリテーションへ通い、日々治療を続けていくうちに、右肩上がりに体調が良くなっていきました。最初にとても不安そうだった表情が、みるみるうちに豊かになっていったのが印象的です。そして念願叶ってお店を再開することができたのです。
人の脳には報酬系といって、なにかを達成するとドーパミンが増えて快感を得るような仕組みが備わっています。彼女の場合は、本来のドーパミン治療薬の効果もさることながら、週2回のリハビリテーションのなかで、少しずつできることが増えていくという達成感が、回復の後押しになったと感じています。「お店を再開したい」という大きな目標がモチベーションになったことは言うまでもありせん。ここまで気持ちを強く、地道に治療を続けている彼女には、アッパレの気持ちでいっぱいです。
最近の彼女に言うことはひとつだけ。「頑張りすぎて無茶だけはしないようにね」…彼女もよくよくお分かりのようで、ニヤッと笑っています。
~北アルプス・大天井岳のテント場と朝焼け
廣谷 真Makoto Hirotani
札幌パーキンソンMS
神経内科クリニック 院長
【専門分野】神経内科全般とくに多発性硬化症などの免疫性神経疾患、末梢神経疾患
眼瞼けいれん・顔面けいれん・四肢の痙縮に対するボトックス注射も行います。
【趣味・特技】オーケストラ演奏、ジョギング、スポーツ観戦、犬の散歩
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