パーキンソン病2024.04.15
春を通り越して初夏の陽気です。札幌では気温が25℃を超え、観測史上もっとも早い夏日になったそうです。どうやら本当に春と秋が短くなってきているようで、気温の変化についていくのも大変です、どうかご自愛ください。
クリニックに通院しているパーキンソン病患者さん。会うといつも表情がやわらかくて、まわりの空気を和やかにしてくれる女性です。パーキンソン病の薬剤治療にくわえて、当院の訪問リハビリテーションも継続し、毎週定期的に自宅でリハビリテーションにも励んでおられます。
他院でパーキンソン病の診断と治療を受けてきて、クリニック初めていらしたときのこと。自宅での様子を伺っていると、料理をするときに転倒しやすいことをだいぶ悩んでおられました。これまでずっと続けてきた家事ができなくなるかもしれないと、彼女の不安がよくよく伝わってくるようでした。
訪問リハビリテーションスタッフが料理の様子を拝見すると、しゃがんだ状態で食材を冷蔵庫から出して、立ちあがり、身体を台所の方向へ180度反転させます。そして、立った状態で10分ほど食材を切り出し、炒め物とみそ汁を同時に料理していきます。コンロ前での横歩きはもちろんのこと、調味料や足りない食材をとるために、冷蔵庫や戸棚に向かって身体を反転させることもしばしばです。炒め物やみそ汁の火の通り具合にも注意しながらなので、時間を気にしながら手際よくすすめないといけません。
一見当たり前にも思える台所での調理動作ですが、パーキンソン病患者さんでは動作に時間を要し、姿勢のバランスもとりにくくなってしまうため、一連の流れ作業をすることが難しくなってくることがあります。とくに、同時に二つ以上のことをする場合(マルチタスク)、時間の制約がかかる状況では、脳と身体の容量(キャパシティ)が急に小さくなってしまう傾向にあります。料理というのは、まさにマルチタスクで時間の制約も出てくる作業です。
脳と身体の容量(キャパシティ)が小さくなりやすく、しゃがむ・立ち上がり・反転・横歩きといった動作にまで注意が届きにくくなりがちです。そのために不本意ながら転倒してしまうことも多いようです。
それぞれの動作自体はしっかりできているため、リハビリテーションではひとつひとつの動作に集中し、各動作の負担を軽減させるように工夫をすすめていきます。まずは冷蔵庫の横に手すりを設置し、休憩でできるようにキッチンチェア(椅子)を用意していきます。また、冷蔵庫内でよくつかうものは下側に置いて取り出しやすいように整理していきます。そして、炒め物とみそ汁を別につくったり、火をつかう・ものを取ると作業工程を別々に分けていきます。
ひとつひとつの動作に集中しやすくし、時間的な制約がなるべくかからないようにすることで、脳と身体の容量(キャパシティ)に余裕が生まれ、料理の流れ作業がスムーズにいくようになりました。訪問リハビリテーションでこのような基本動作を反復練習していくことで、彼女が転倒することもめっきり減っていきました。「これからも台所で料理を続けることができそうです」と、彼女のホッとした表情が印象的です。
~奥三角山からの札幌市街 春の記録的な夏日に
廣谷 真Makoto Hirotani
札幌パーキンソンMS
神経内科クリニック 院長
【専門分野】神経内科全般とくに多発性硬化症などの免疫性神経疾患、末梢神経疾患
眼瞼けいれん・顔面けいれん・四肢の痙縮に対するボトックス注射も行います。
【趣味・特技】オーケストラ演奏、ジョギング、スポーツ観戦、犬の散歩
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