Dr Makoto’s BLOG

たくさんの息でブルブル~っと声帯を

パーキンソン病2024.05.20

日中は薄着で過ごせるくらいに暖かくなり、一年でいちばん気持ちの良い時期を迎えています。只今満開のライラックの傍を歩くと、香りが心地よく、桜にはない楽しみがあります。
 
クリニックに通院しているパーキンソン病患者さん。歌をこよなく愛し、いつもお洒落を楽しんでおられる女性です。先日クリニックにいらしたときのこと、鮮やかなヘアカラーとネイルに思わずうっとりしてしまいました。
 
彼女とお話ししていると、よく通る声で聞き取りやすく、コミュニケーションをとるには問題ないように感じてしまいます。ところが、以前に比べると声が小さく・低くなってきて、高い声が意識しないと出しにくくなってきているとの様子です。とくに歌うときに感じることが多いようで、熱心な彼女は理学療法・作業療法にくわえて言語療法も開始することになりました。
 
パーキンソン病では上手く力を抜けなくなってしまうために、様々な筋肉に力が入った状態、つまり「こわばり」が出やすくなってしまいます。御多分に漏れず首や舌・声帯も筋肉のため、首回りや舌・声帯がこわばることで、声が小さく・かすれてしまいます。また、胸郭の筋肉がこわばることで、吐き出す息の量(肺活量)が少なくってしまい、こわばった声帯の振動がさらに小さくなってしまいます。大きな声を出そう、高い声を出そうとすると、かえって力が入り過ぎてしまい、なかなか思うように声を出せなくなってしまうことがあります。
 
言語療法ではパーキンソン病のしゃべりにくさに対して、まずはこわばった首や舌のストレッチを指導しています。ストレッチで首や舌の緊張を和らげてから、次に息を真っすぐ遠くにとばすような発声練習をしていきます。高い声はどうしても力が入りやすくなってしまうため、最初のうちは最大限に出せる息の量で、低い音を出して思いっきり声帯を振動させていくことが大切です。ため息をつくように喉奥をおおきく広げて、声帯をブルブル~と大きく振動させるイメージです。このときに、顎を引いて、頭のてっぺんが天井から糸で引っ張られたような姿勢をイメージすると効果的です。
 
これらのポイントをひとつひとつ意識しながら、繰り返して練習していくことで、次第に無意識にできるようになっていきます。これがリハビリテーションです。彼女の言語療法での発声訓練は、ちょっとしたコンサートのような美声でした。
 
今日も言語療法室では、元気な早口言葉、大きな声出し、ドレミファソラシドの音階発声が聞こえています。
 

~新緑の手稲山からみる無意根山と定山渓天狗岳
 

廣谷 真

廣谷 真Makoto Hirotani

札幌パーキンソンMS
神経内科クリニック 院長

【専門分野】神経内科全般とくに多発性硬化症などの免疫性神経疾患、末梢神経疾患
眼瞼けいれん・顔面けいれん・四肢の痙縮に対するボトックス注射も行います。

【趣味・特技】オーケストラ演奏、ジョギング、スポーツ観戦、犬の散歩